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大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)4288号 判決

原告 株式会社新興機械製作所

被告 新興機械株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は被告は原告に対し金一〇五万円及びこれに対する昭和三一年一〇月二三日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、株式会社新興機械製作所は昭和二九年一一月一日よりその所有に係る大阪市東淀川区野中南通二丁目二三番地上木造瓦葺二階建居宅一棟外工場等一〇棟及び同建物備付の機械器具什器八〇数点を被告に対し賃料一ケ年に付金一八〇万円、一ケ年分前払の約で賃貸した。

二、ところが前記会社は昭和三〇年一月一八日午前一〇時大阪地方裁判所において破産宣告を受け原告はその破産管財人に選任せられた。

三、破産会社は前述のとおり被告より一ケ年分の賃料の前払をうけているが、賃貸人破産の場合賃料の前払は破産法第六三条により破産宣告の時に於ける当期及び次期に関するものを除く外これを以て破産債権者に対抗することができず、右にいわゆる当時及び次期とは破産宣告のあつた当月分及びその翌月分を指すものであるから被告は破産宣告の時期たる昭和三〇年二月分及び三月分を除きその翌四月分以降一〇月分迄の賃料月額金一五万円計一〇五万円を原告に支払わねばならない。よつて被告に対し右金員及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三一年一〇月二三日以降完済迄年五分の割合による金員の支払を求めるため本訴請求に及んだと陳べ、

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として

原告主張事実は総てこれを争わない。しかしながら破産法第六三条の当期及び次期とは本件の如く年を以て賃料を定めたものについては当年及び翌年分と解すべきであるから、被告がなした賃料の前払は当然原告に対抗しうるものである。詳述すれば本件の賃料の定め方そのものが「一ケ年金一八〇万円」と契約され、被告は「一ケ年分前払」の約定に基き一年分を前払したのである。もちろん計算上は月額一五万円の割となるが、一ケ月の賃料を一五万円と約定し、その一二ケ月分を前払したものではない。右のような約定で賃借した場合当期とは途中に破産宣告のあつた一ケ年分すなわち昭和二九年一一月一日より昭和三〇年一〇月末日迄の賃料と解すべきであり、本訴請求にかかる賃料の前払は当然賃借人において破産債権者に対抗しうるものであるから、原告の本訴請求は理由がない。

理由

原告主張事実はすべて当事者間に争がない。よつて該事実に基く本訴請求の当否を按ずるに、破産法第六三条は賃貸人が破産の宣告をうけた場合に破産宣告前に賃貸人が賃借人より借賃の前払を受けたときはその前払は破産宣告の時における当期及び次期に関するものは破産債権者に対抗しうるが、その他の部分は対抗し得ないものと規定している。そして右いわゆる当期及び次期とは本件のように賃料を定めるに「賃料は一ケ年金一八〇万円一年分前払」と定められた賃貸借契約においては途中に破産宣告のあつた当該年度分(歴年にはよらないで当該約定の一ケ年を以て当該年度とする)及びその翌年度分と解するを相当とする。従つて本件においては前払されていることについて争のない昭和二十九年一一月一日より昭和三〇年一〇月末日迄の賃料は正に破産宣告のあつた「当期」の賃料に該当し、被告は当然その前払を以て原告に対抗しうるものであるから、原告の本訴請求は理由がないものといわねばならない。(原告は本件のように年払の約定でも当期及び次期とは当月分及び翌月分と解すべき旨主張するけれども、民法六一四条は補充規定であつて、これと異なる定めある場合はこれに従うべく、破産法第六三条の当期及び次期とは賃貸借契約における賃料の支払についての約定如何により定まり三ケ月払と契約されている場合は途中破産宣告のあつた三ケ月分(当期)とその次の三ケ月(次期)(計六月分)また月払の約定ならば当月分と翌月分と解すべきで、本件のように年払の約定ある場合には当年度分及び次年度分とこれを解すべくこれと異る見地に立つ原告の立論は到底採用できない。)

よつて民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎)

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